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福岡地方裁判所 昭和48年(ワ)174号 判決

原告

吉田フサ

被告

東洋写真製版株式会社

ほか一名

主文

被告らは各自原告に対し金七〇万六四二〇円及びこのうち金六四万六四二〇円に対する昭和四六年四月四日から、このうち金六万円に対する昭和五二年四月二八日から各支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用はこれを三分し、その二を原告のその余を被告らの各負担とする。

この判決の第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告 「被告は原告に対し金三五五万七六一一円及びこれに対する昭和四六年四月四日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする」との判決並に仮執行の宣言。

二  被告ら、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決並に敗訴の場合の仮執行免脱宣言。

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

(一)  事故の発生

1 日時 昭和四六年四月四日午前一時二〇分頃

2 場所 福岡市博多区博多駅前二―八先路上

3 加害車 普通乗用自動車

運転者 被告栗原賢三

4 被害車 普通乗用自動車

運転者 石橋重樹

同乗者 原告

5 態様 右場所に信号待ちのため一時停車中の被害車に加害車が追突した。

6 結果 原告は右衝激により傷害を負つた。

(二)  責任原因

1 被告栗原

自動車運転者としての前方不注視の過失により本件追突事故が発生したので民法第七〇九条による責任がある。

2 被告会社

本件加害車の所有者でこれを自己のため運行の用に供していたので自賠法第三条による責任がある。

(三)  損害

1 基礎事実

イ 負傷病名 頸部捻挫、背部腰部の挫傷

ロ 通院期間 昭和四六年四月四日から同五一年八月二八日まで

ハ 後遺症 頭痛知覚疼痛等があり自賠法施行令別表後遺障害等級一一級に該当する。

2 治療費 合計五一万〇八七八円

3 通院交通費 四万九〇〇〇円

(往復電車賃)七〇円×七〇〇日分

4 休業損害 四八万円

原告は本件事故当時吉田運輸こと吉田房次郎方に勤務して月給三万円を得ていたところ、本件事故のため一六ケ月間休業し退職せざるを得なくなつた。

5 逸失利益 七一万七七三三円

原告は昭和五二年二月二六日付で後遺障害一一級の認定を受けたのでその労働能力の二割は喪失しこれが三年間は主婦としての業務に支障をきたすものと認められ昭和四九年賃金センサス女子労働者の企業規模計、学歴計の平均月収は九万四四〇〇円であるので、これを一・一六倍した一〇万九五〇四円を基礎にして三年分をホフマン方式により中間利息を控除して次式により計算

10万9504×0.2×12×2.7310

6 慰藉料 二七五万円

前記通院期間、後遺障害の程度等を斟酌

7 損害の填補

原告は、自賠責保険より一二五万円の支払を受け損害に填補した。なお、被告栗原はお手伝の給料として原告に九万四四〇〇円を支払つたが原告は同額の出費をしたものである。

8 弁護士費用 三〇万円

よつて原告は被告らに対し金三五五万七六一一円、及びこれに対する不法行為の日である昭和四六年四月四日から支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告の答弁

(一)  請求原因(一)事故の発生、同(二)責任原因、同(三)7損害の填補の各事実はいずれも認めるが、その余の請求原因事実はいずれも不知、損害額は争う。

第三証拠関係〔略〕

理由

一  事故の発生、責任原因

右に関する請求原因(一)(二)の各事実についてはいずれも当事者間に争いがない。

二  損害

(一)  基礎たる事実

いずれも成立に争いのない甲第一〇号証ないし第一七号証、同第二六号証、同第四三号証、乙第一号証ないし第三号証、九州大学付属病院医師、国立福岡中央病院医師の各鑑定結果、証人滝沢一男、同木梨弘二郎の各証言、原告本人尋問の結果によると以下の各事実が認められる。

1  原告は本件事故前の昭和四三年三月から本態性高血圧症のため頭痛、肩こり、めまい等の諸症状を訴え、毎月少いときで三日間位、多いときで一〇数日間通院治療を継続していたこと、

2  事故後頸部捻挫、背部、左腰部打撲傷の病名で昭和四六年四月四日から同月六日まで(実通院三日間)木村外科において、同月六日から同月一七日まで(実通院一一日間)加藤外科において、同月一九日から、昭和五一年二月一六日まで木梨外科において(実通院七一四日間)各通院治療を受け、その間浜の町病院整形外科、九大病院整形外科、同病院脳神経外科、福岡中央病院整形外科、福岡市医師会病院、福岡大学付属病院神経外科を受診していること、

3  右治療期間中の原告本人の訴は頭重、頭痛、めまい、項部、右肩背部腰部痛が重なものであり、時折両下肢のしびれ、易疲労感があるというものであり神経学的にも特段の他覚的異常所見は見当らなく、外来による理学療法、薬物療法を主として行われ徐々に症状は軽快に向つており、昭和四九年四月中旬の福岡中央病院医師による鑑定のための受診時においては、本人の自覚症状は「ア 天気が悪いときに頸や肩がはつてきて頭が痛い、イ 右手に力が入らない。ウ 背を伸すと背中が痛い。エ 坂を登るとき足がうまく運ばない。」という程度になつており、遅くとも右の時点において症状固定と認められ右後遺症の程度としては、自賠法施行令別表所定の障害の等級第一二級に該当すると判断されること、

4  原告には経年性の頸椎間狭少変形性背椎症の異常が認められるほか、本人には医療に対する過剰な期待と医師に対する不信感、健康に対する完全欲など心因的症状の極めておこり易い状態にあり、症状の神経症的な修飾がうかがえること、

(二)  治療費 五一万〇八七八円

いずれも成立に争いのない甲第一四号証ないし第一七号証いずれも弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一九号証ないし第二一号証、同第二七号証ないし第四一号証、原告本人尋問の結果によれば原告は同額の治療費を要したことが認められる。

(三)  通院交通費 四万九〇〇〇円

前記(一)2記載の木梨外科実通院日数七一四日間につき原告本人尋問の結果によると一日当り往復電車賃七〇円を下らない交通費を要したことが認められ右の内七〇〇日分についての請求は理由がある。

(四)  休業損害 四八万円

原告本人尋問の結果及びこれによつて真正に成立したものと認められる甲第二四号証の一、二によると原告は本件事故当時、吉田運輸こと吉田房次郎に勤務し月給三万円を得ていたところ、本件事故による治療のため昭和四七年七月末日までの間休業をやむなくされ同額の損害を受けた。

(五)  労働能力低下による逸失利益四二万八五二二円、原告は前記一3の症状固定時である昭和四九年四月中旬以降三年間は右記載の後遺障害のために一〇〇分の一四程度の労働能力を喪失し、労働省賃金センサス昭和四九年第一巻第一表全女子労働者の学歴計、企業規模計による平均給与を基礎として中間利息をライプニツツ方式により逸失利益を次式により算出するを相当とする。

{(75200×12)+221600}×0.14×2.7232-42万8522円

(六)  慰藉料 一五〇万円

前記本件事故の態様、負傷の部位程度、通院期間、後遺症の部位、程度等一切の事情を斟酌して右の額を相当とする。

三  原告の身体的素因の寄与

原告は本件事故前から前記二1の程度に治療を要する本態性高血圧症の病状を有していたこと、同4に記載の変形性背椎症を有し、更に通常人以上に心因的症状が起り易い状態にあることの原告固有の事故によるものとはいえない各身体的素因がなければ前示認定の程度ほど重症かつ長期の治療を要するに至らなかつたことが推認され、原告の前示各症状は本件事故と相まつて発症し原告の右身体的素因によつて増悪したものと考えられ、本件結果全体に対する本件事故の寄与率は一〇〇分の六五と認めるのを相当とし、被告は原告に対し前記損害総額の同割合部分について賠償を求めることができると認めるを相当とする。

四  損害の填補

原告は、自賠責保険より一二五万円の給付を受け本件損害に填補したこと原告は本件事故で治療中のお手伝の給料として九万四四〇〇円を要したが被告栗原が同額を原告に支払つたことは当事者間に争いがないので、前記二の損害額及び右お手伝給料分の合計三〇六万二八〇〇円について前記認定の本件事故の寄与率である一〇〇分の六五を乗じた一九九万〇八二〇円から右当事者間に争いのない損害填補額一三四万四四〇〇円を控除した六四万六四二〇円が原告においてなお被告らに支払を求め得る金額となる。

五  弁護士費用 六万円

原告は本訴の追行を弁護士たる訴訟代理人に委任したことは本件記録上明らかであり、本訴の事案の難易度、訴訟の経過、認容額等一切の事情を考慮し、原告が被告に求めることのできる弁護士費用としては右の額をもつて相当とする。

六  結論

以上のとおり原告の被告らに対する本訴請求中金七〇万六四二〇円及びこのうち弁護士費用を除く金六四万六四二〇円に対する不法行為の日たる昭和四六年四月四日から、弁護士費用の金六万円については本判決言渡の日の翌日たる昭和五一年四月二八日から各支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるので正当として認容しその余については失当として棄却し訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 松村恒)

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